作られたアイドル(つくられたあいどる)

「作られたアイドル」とは、アイドルタレントに対する蔑称もしくは否定的な評価である。特に人気のあるアイドルに対して、実力が伴っていないという意味で貶める表現として使われる。
逆に人気に見合った実力があるとか、人気はないが実力はあるという肯定評価の慣用表現として、「作られたアイドルではない」という言い方がある。

アイドルグループ・ももいろクローバーZに対して、「作られたアイドルではない」とか「やらされている感がない」と賞賛が向けられることがある。

最近(2013年春時点)でいえば、笑福亭鶴瓶や飯島勲がそういった発言をしている。

しかし、ももクロのファンなら誰でも知っていることだが、ももクロもまた、ある意味作られたアイドルであり、常にやらされているアイドルである。

【前世紀の作られたアイドル】
一般に作られたアイドルといった場合、大手のタレント事務所やレコード会社、テレビ局、広告代理店などがスクラムを組んで、タレントのキャラクターイメージを作り上げ、マスメディアへの大量露出によって一挙にスターダムに押し上げることを指して言う。

典型的事例としては、1980年代のアイドル・酒井法子があげられる。出版社、テレビ局、レコード会社がタイアップしたアイドル育成システムである「モモコクラブ」の中心メンバーとして活躍した酒井だが、元々は「'86 ミスヘアコロン・イメージガール・コンテスト」に出場者だった。そこでは優勝できなかったものの、大手芸能事務所サンミュージックの専務の目にとまりデビューが決定した。
「のりピー」という親しみやすいニックネームが付けられ、美少女なのに「いただきマンモス」「うれピー」などのおかしな口癖とノリの良さのギャップが面白がられて人気者になった。
しかし、のちに酒井法子本人の口から、特徴的な口癖はすべて放送作家が考えたのを無理矢理言わされていたもので、本人はイヤでイヤで仕方なかったことが明かされた。
当時筆者の友人が、酒井のファンクラブに入って誕生日イベントに出席したが、ファンに囲まれて笑顔を振りまいていた酒井が、後ろを向いて誰も見ていないと思ったときに、もの凄く嫌そうな顔をしていたのを偶然見てしまい、「イヤなものを見てしまった」とショックを受けていた。
まさに作られたアイドルだ。

また、売り出しかたはアイドルではなくアーチストというくくりではあるが、2008年にavex traxから創立20周年を記念して「社運をかけて」デビューし、わずか3ヶ月でNHK紅白歌合戦出場を果たしたユニット「girl next door」も、20世紀的な、マスメディアへの大量露出と根回しによって作られたアイドル、作られたスターの典型だろう。

【作られていないアイドル?】
これに対して、典型的な「作られたアイドルでない」グループとしてわかりやすいのがPerfumeだ。
アクターズスクール広島に通う3人の少女たちが自発的に結成し、ローカルアイドルとして活動したあとに上京して2年間インディーズ活動を行ってからメジャーデビューした。しかし大々的なメディアの後押しもなく、ネットや店頭から徐々に人気を獲得して、メジャーデビュー3年目にブレイクした。
ただし、プロデューサーの中田ヤスタカの力と時代がマッチしたことと、アミューズという大手レコード会社の後ろ盾もあったわけで、メンバーの独力でブレイクしたわけではない。

AKB48の場合も、マスマディアの後押しはなかった。しかし、全国規模でオーディションを行い、合格者にしかるべきレッスンを施し、一流の作家が曲作りに参加し、都心に常設の専用劇場をもって毎日公演を行うということは、大きな資本の裏付けとビジネス的な戦略がなくてはできないことである。
AKB48は、マスメディアとレコード会社の力を借りずに、「秋元康のビジョンと資本力によって作られたアイドル」と言うことができるだろう。

ももいろクローバーZもまたマスメディアの後押しはなかったが、やはり大手芸能事務所スターダストプロモーションが作り出したアイドルであるのは事実だ。ただしそのアイドルを作りだす手法が、大手芸能事務所らしからぬものだったのことが非常にユニークだった。

AKB48のような、立ち上げ時の積極的な資本投下は一切行わず、路上ライブやワゴン車に乗り合わせての車中泊全国ツアーなど、まるで売れないロックバンドや演歌歌手、もしくはインディーズ・プロレスのような初期の活動は、ももクロの「作られたアイドルではない」というイメージ形成の土台のひとつとなっている。

しかし、ロックバンドや演歌歌手と大きく違うのは、グループ結成も、路上ライブも、全国ツアーも、メンバー本人たちの希望で行われたことではなく、事務所側、とくにマネージャーの川上アキラの意志によって実行されたということだ。

ももクロのメンバーの少女たちは“アイドルになるつもりなどなかった”と異口同音に主張する。事務所の先輩である柴咲コウのような女優や歌手になることを夢見て、スターダストの門をくぐったのだろう。
しかし、たまたまダンスが得意だったために集められて、大人が言うままに地下アイドルのような活動をすることになってしまった。

川上アキラは、少女達につぎつぎと試練を与え、メンバーがそれを乗り越える。その過程に川上の趣味のプロレスの文法が流用されたことをマスコミが面白がり、ももクロのブレイクの秘密は「プロレス」ということになった。

たしかにプロレス的なストーリー作りやネタは、話題作りのフックになっている。しかし、ももクロの実質的なブレイクのきっかけはメジャーデビュー曲「行くぜっ!怪盗少女」のインパクトの強さとクオリティの高さであり、それが発売直後にNHKの歌番組「MJ」のアイドル特集で放映されたことだった。つまりブレイクの直接のきっかけは大手レコード会社のコンテンツ制作力とTVメディアの力だった。

しかし、TV出演しても人気が出ずに消えていくアイドルは星の数ほどいる。「行くぜっ!怪盗少女」はももクロだからこそ成立した曲だった。それぞれに強い個性と独特の声の質を持つ、身体能力の高い6人がいたからこそ、この曲は生まれた。もしくは前山田健一がメンバーの個性を見いだし、楽曲の形で際立たせたからこそ、グループとしてのももクロの特徴が明確になった。

路上ライブや車中泊ツアーの意味について、高城れには、「(あれがなかったら)ここまでメンタルが強くならなかった」と述べている(テレ朝動画「ももクロchan」)。
K-1GPやプロレス、ロックバンドとの対バンやフォークイベントへの出演など、次々とアウェイに出て勝負を繰り返すことで、ももクロはメンタルの強さとバラエティ的な反射神経や対応力、個性の出し方を学んでいった。

【お金の代わりに時間をかけた結果】
そうやって、少女たちに次々と学ぶ機会を与えることができたのも、大手の事務所としての資本力があったからだ。お弁当代はひとり600円までとか、ブーツにガムテープで補修しているとか、つましさをウリにしていたももクロだが、それでも営利企業である事務所からみれば、それなりにお金をつぎ込んだはずだ。

代々木公園の路上ライブといえども、そこに大人のスタッフが立ち会えば人数分の人件費が発生する。インディーズデビューの全国ツアーだって只ではできない。衣装にもお金がかかるし、振り付けにだってギャラを払わねばならない。ほとんどお金がかかっていないように見えるPVですら、100万円ぐらいはかかったと川上アキラから明らかにされてメンバーは驚いていたが、スタジオ使用料や人件費を考えれば、そんなものだ。
もっとも、大手事務所の新人プロモーションとしては、ケチケチなのも事実だ。

アイドル歌手と女優では、同じ芸能でもビジネスの質が大きく異なる。アイドル歌手の場合、CD売り上げによるレバレッジが効きやすい。1500円のCDが1万枚売れれば1500万円、10万枚売れれば1億5000万円の売り上げである。リターンが大きいから、初期投資も積極的になれる。とくにCDがよく売れた'80年代、'90年代は派手なプロモーションとタイアップが常識となっていた。
AKB48の初期投資も、最終的なビジネスの拡大を視野にいれていたからできたはずだ。

スターダストプロモーションは、大手と言っても女優がメインの事務所であり、アイドル歌手のノウハウはなかった。そして、ひとりの女優が育つには、長い時間がかかる。まして、CDもなかなか売れない時代である。女優とは違う形かもしれないが、派手にお金をかけずに、ももクロをじっくり育てようとしたことが、結果的にさまざまな試練を与え、エピソードを残すことになったのだろう。

【アイドルとは作られるモノ】
ももクロも、芸能事務所によって作られたアイドルであることには間違いない。
70年代にキャンディーズのバックバンドを務め、その後もアイドルやバンドのプロデュースを手がけた新田一郎は、アイドルを「総合芸術」だと言った。多くの人が関わって、お金と才能と時間をつぎ込んだ結果として、きらびやかなアイドルの偶像が作り出される。

'80年代以降は、資本力やマスメディアの力を活かして「速成されたアイドル」が増えたが、'00年代に登場したももクロは、お金の代わりに時間と手間とアイデアをつぎ込むことで「熟成された(されつつある)アイドル」であると言えるだろう。

ちなみに、2013年1月1日、Ustreamで国立競技場を目指すことを宣言したあと、高城れには「与えられたことをひとつひとつこなしていかないと次がない」と語り、それを受けて百田夏菜子は「やるべきことが与えられるだけでも幸せだとわかった」と言った。

すべてのアイドルは、多かれ少なかれ作られるものだ。
しかし、自分たちが多くの人の手で作られた存在と知りつつ、その枠に収まらず全力で頑張って、与えられた枠からさえはみ出していく。

それこそがももクロを「作られたアイドルではない」「やらされている感じがしない」とモノを知った大人にまで言わせてしまう力の源だろう。


※当初、(無名のアイドルが大企業であるヤマダ電機とタイアップできたのも大手事務所だからだろう)という記述をしていましたが、ヤマダ電機とタイアップできた理由は、インディーズ時代の発売元だった「ハッピーミュージックレコード」の親会社がヤマダ電機だったからだとコメントで教えていただきました。謹んで、この一文を削除させていただきます。




感想をコメント欄にお願いします